SFI正式版への道#4 その条件、明日試せますか?

多目的最適化と聞くと、「何個の目的を同時に扱えるか」に目が行きがちです。でも、SFI正式版で一番時間をかけたのは、そこではありません。返ってきた条件を、明日、現場で本当に試せるか。つまり、説明変数の「現実性」です。本記事は全6回の連載「SFI正式版への道」の第4回となります。
みなさん、こんにちは。Vertysの山本です。
今日は、多目的最適化の話です。先に結論を書いておきます。
大事なのは「目的」の側ではない。
返ってくる条件が現実に試せるか──「説明変数」の側だ。
現場は「1つの指標」だけでは動かない
| 工程 | 同時に見たい指標 | よくある板挟み |
|---|---|---|
| 射出成形 | 寸法精度/ヒケ/ サイクルタイム | 冷却を延ばすと寸法は安定するが、生産量が落ちる |
| 熱処理 | 硬度/変形量/ エネルギー | 温度を上げれば硬くなるが、変形と電気代が増える |
| 塗装・印刷 | 膜厚/色ムラ/ 塗料使用量 | 厚く塗れば色ムラは減るが、コストが増える |
SFIのBackcastは、こうした複数の目的を同時に扱い、目的値から逆算して条件を出します。目的ごとに「狙い値に合わせる」「最大化する」を決め、優先度(%)で重み付けするだけです。
ここまでは、「目的」の側の話です。
「計算上の最適」は、そのままでは試せない
ツールが「温度195℃、保持時間75秒で、全目標を満たします」と返してきた。
──でも、そのラインで195℃は一度もやったことがない。
計算上は最適でも、量産ラインの責任者はこのボタンを押せません。実績のない条件は、外れたときの被害の見当がつかないからです。
最適化ツールが現場で使われなくなる理由は、たいてい「説明変数」の側にあります。だから、SFIでは次の6つに一番時間をかけました。
| # | 作り込んだこと | 現場の問い |
|---|---|---|
| ① | 探索範囲の絞り方を選べる | どこまで動かしていいか |
| ② | 出発点(基準値)の取り方を選べる | 「いつもの条件」はどこか |
| ③ | すべての条件の分布を自動で可視化 | 提案値は、実績のどのあたりか |
| ④ | マハラノビス距離で、条件全体を判定 | 1つずつは大丈夫でも、 組み合わせとしてはどうか |
| ⑤ | 動かした量と目的変数のリニアリティを可視化 | 少しずれたら、暴れないか |
| ⑥ | 最大10パターンの答えを並列で比較 | 号機ごと・品種ごとに、 答えはどう違うか |
①② 探索範囲と出発点:探す場所を、いつもの条件の延長に限る
ベテランには「この辺りなら大丈夫」という感覚があります。SFIでは、それを 「柵」(探索範囲) と 「出発点」(基準値) として数値で置き、柵の外は探しません。

図:探索範囲と基準値
| 柵の置き方 | 向いている場面 |
|---|---|
| 四分位50%範囲 (Q1〜Q3) | 一番慎重に攻めたい。外れ値が多い、分布が歪んでいる |
| ±1σ | 標準的な条件出し。まずはここから |
| ±2σ | 改善の余地をもう少し探りたい |
| 実績の最大・最小/ 設備の上下限 | 実績が十分にあり、広く探しても安全と分かっている |
| 出発点の取り方 | 向いている場面 |
|---|---|
| 最頻値(既定) | 一番よくやっている条件。分布が歪んでいても「いつもの条件」に近い |
| 中央値 | 外れ値に引っ張られたくない |
| 平均値 | 分布がきれいな単峰 |
| 手動 | 現行レシピの値から始めたい |
図のように分布が歪んでいると、最頻値・中央値・平均値は違う場所を指します。だから、既定は最頻値にしました。
出発点が「いつもの条件」なので、提案値との差が、そのまま現場で変える量として読めます。どこまでリスクを取るかを、エンジニアが自分で決められる。ここをツールの都合で固定しないことが大事でした。
③ すべての条件の分布を、自動で並べる
すべての説明変数について、実績の分布・柵・基準値・提案値を重ねたヒストグラムを自動で並べます。
提案値が分布の真ん中にあるのか、端ぎりぎりにあるのかが、ひと目で分かります。端にある変数があれば、試作の前に現場で可否を確認すればいい。
④ 1つずつは妥当でも、全体としてはどうか
ここが、一番こだわった部分です。

図:マハラノビス距離
この例では、実績に「温度が高いときは、時間を短くする」という関係があります。
提案Aは、温度も時間も、変数ごとの柵(緑の箱)の中です。1つずつ見れば妥当。 でも組み合わせは「高温×長時間」で、実績の山からは大きく外れています。
これを判定するのがマハラノビス距離です。変数どうしの相関を織り込んで、「その組み合わせが実績の山からどれだけ離れているか」を1つの数字にします。SFIでは、提案条件が実績の山のどこにあるかを、グラフで確かめられます。
1つずつ大丈夫でも、全体として大丈夫とは限らない。
⑤ ピーキーな条件になっていないか
量産では、条件は必ずばらつきます。だから、少しずれても暴れない条件でないと使えません。

図:リニアリティ
SFIでは、提案条件を1〜20%動かしたときに、目的変数がどう変わるかを表示します。
- 直線的で帯が細い(提案B):素直に応答する。管理しやすい
- ある量を超えると急落する(提案A):ピーキー。量産には要注意
⑥ 10パターンの答えを並列で比べる
号機ごとに「クセ」は違います。全データをまとめて最適化すると、返ってくるのは 「全ラインの平均的な条件」 です。どの号機にも、ぴったりは合いません。
SFIでは、装置IDなどを指定すると、パターンごとに別モデルを学習し、それぞれの最適条件を一括で出します(最大10パターン)。
| ライン | 実績件数 | 膜厚の予測(狙い15.00) |
|---|---|---|
| PR-01 | 150件 | 14.05 |
| PR-02 | 149件 | 15.14 |
| PR-03 | 128件 | 15.76 |
| PR-04 | 73件 | 15.18 |
横並びで比べれば、どの号機が狙いに届きにくいかも同時に分かります。作業指示は号機単位で出るので、ここは外せませんでした。
最後に選ぶのは、根拠を見たエンジニア
①〜⑥は、どれも「計算を賢くする」話ではありません。「この条件、明日試していいか」を人が判断するための材料です。
提示された条件は、予測画面で現場の事情に合わせて書き換え、試算もできます。最終的な1点を選ぶのは、根拠のグラフを見たエンジニアです。だから、品質保証部門にも経営にも説明できる。
AIに任せきりにしない。机上の空論を返さない。装置ごとの個性を無視しない。
今日のまとめ
- 多目的最適化で本当に大事なのは、「説明変数」の現実性
- 探索範囲(四分位50%・±1σ・±2σ・上下限)と出発点(最頻値・中央値・平均値・手動)を選べる
- 分布・マハラノビス距離・リニアリティで、使える条件かを目で確かめる
- 最大10パターンの答えを並列で比べる
「発見はしない。でも、絶対に外さない」。この立ち位置を、多目的最適化でも貫きました。
次回は、称号・ランクシステムです。なぜ解析ツールにゲームのような仕組みを入れたのかを書きます。
それでは、また次回。






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