スピンオフ#4 SFIをMI領域に拡張するとしたら──PIの土台の上に、何を積むか

SFIはPIツールですが、その土台の上にMIモードを追加できないか。連続値から離散へ、物理制約から化学制約へ、一発測定から多段測定へ──MI拡張で何を変え、何を引き継ぐか。SFIの未来の構想を書きます。本記事は全4回のSFI開発記のスピンオフ連載の第4回となります。
みなさん、こんにちは。Vertysの山本です。
シリーズ最終回です。
第1回で、私は 「SFIはMIじゃなくてPIだ」 と書きました。それは今も変わりません。
でも、社内で壁打ちを続けていくうちに、こう思うようになりました。
「SFIの土台の上に、MIモードを追加できないか?」
PIを本業として磨きながら、その上に 「材料そのものの探索」 のレイヤーを追加できないか、という話です。今回は、その 拡張設計 をどう構想しているかを書きます。
PIとMIで、SFIの何を変える必要があるか
現行SFIの中身は、既にベイズ最適化を使っています。ここは第2回で書いた通り、SFIの探索エンジンとして中核に据えている道具です。
だから、MI拡張の議論は 「ベイズ最適化を導入する」 という初歩の話ではありません。「同じベイズ最適化の枠組みを、MIの世界に持ち込むと、何を変える必要があるか」 という、その先の話です。
大きく分けて、変更が必要な部分は3つあります。
変更点①:説明変数の中身が「連続値」から「離散+構造」に変わる
PIの説明変数は、温度・圧力・時間——基本的に連続値です。「180℃と185℃の間を探索する」ができる。
MIの説明変数は、組成です。
- 「元素A:30%、元素B:45%、元素C:25%」といった 配合比
- 「触媒として、Xを入れるか、Yを入れるか、両方入れるか」といった 離散選択
- 場合によっては 分子構造や結晶構造 そのもの
「連続値の探索」を前提に組まれたSFIの探索ロジックを、そのままMIに持ち込むと動かない——ここが最初の壁です。
拡張するには、「配合比の合計は100%になる」といった制約(単体制約)を組み込んだり、「離散的な選択肢を、連続空間に埋め込む」記述子の設計が必要になります。ここは、PIには存在しなかった論点です。
変更点②:ハード制約が「化学の言葉」で書かれる
PIモードのハード制約は、工程条件の物理的限界でした。装置の温度上限、圧力の許容範囲、それに準じる話です。
MIモードのハード制約は、まったく別の言葉で書かれます。
- 合成可能性:この配合、そもそも作れるのか?(相分離、析出、反応暴走)
- 化学的な安定性:出来上がったものが、常温常圧で保存できるのか
- 毒性・法規:使用が許される元素・配合か(REACH、RoHS、消防法など)
- コスト・入手性:この元素、そもそも量産で調達できるのか
PIの「工程の物理制約」ではなく、MIの「化学と法規と経済の制約」です。ここは、SFIが今まで扱ってこなかった領域で、お客様側(材料メーカーの技術者)から知識を引き出すインターフェースの設計 が必須になります。
変更点③:目的変数が「一発測定」ではなく「多段測定」になる
PIでは、目的変数は基本的に 「作ってすぐ測れる」 ——歩留まり、寸法精度、外観検査、その日のうちに数値が出ます。
MIでは、目的変数がずっと厄介です。
- 短期物性(強度、比重、色)は数日で出る
- 中期物性(耐熱性、耐腐食性)は数週間〜数ヶ月
- 長期物性(耐候性、疲労寿命)は数年かかることもある
探索ループが数年単位になる目的変数がある——これは、PIモードでは想定していなかった時間軸です。
対応策としては、「長期物性を、短期の代替指標(サロゲート指標)で予測する」 モデルを、SFI側に組み込む必要があります。これは、材料メーカーが社内で既に経験則として持っているケースが多いので、その暗黙知をSFIに載せる、という設計になります。
つまり、MIモードは「PIモードの拡張」というより「PIモードの隣に建てる別棟」
3つの変更点を並べてみて、私が思うのは、こういうことです。
MIモードは、現行SFIの延長線上ではなく、「PIモードの隣に建てる別棟」として設計するべきじゃないか。
理由は3つあります。
- 説明変数の性質が違いすぎる(連続 vs 離散+構造)
- 制約の言語が違う(物理・工程 vs 化学・法規)
- 時間軸が違う(日単位 vs 年単位もある)
無理に 「1つのSFIで両方やります」 とすると、UIが破綻します。PIモードの温度スライダーと、MIモードの元素選択ボタンが同じ画面に並ぶと、ユーザーは絶対に混乱する。
だから、こういう構造にしたいと考えています。
同じSFIプラットフォームの中に、PIモードとMIモードを別棟として建てる。
共通するのはベイズ最適化の探索エンジンと、データの入れ物だけ。UIは完全に分ける。
「PIモードの中でMIっぽいこともできます」と器用貧乏になるより、「別々のUI、別々の設計思想、共通の探索エンジン」 で作った方が、両方とも本気で使えるものになります。
MIモードで、PIモードから引き継げる資産
とはいえ、ゼロから作り直すわけではありません。PIモードで積み上げてきた資産のうち、MIモードにそのまま引き継げるものがあります。
引き継げる資産①:ベイズ最適化の探索エンジン
エンジン部分は共通化できます。ただし、離散変数や単体制約に対応する拡張は必要です。
引き継げる資産②:「面や帯の一部であること」のスコア化
第2回で書いた、返す1点が 「尖った一点ではなく、周辺が平らな高台」 であることを評価する仕組み。これはMIモードでも、そのまま効きます。
材料の世界でも、「配合が0.1%ズレたら性能が崩れる」ような尖った解は、量産で使えません。製造ロットのバラツキを吸収できる、平らな高台の配合を返す——この設計思想は、PIでもMIでも一緒です。ここは、SFIの譲れない部分として、MIモードにも引き継ぎます。
引き継げる資産③:多峰性への対応
材料の世界でも、配合空間の中に複数の「良い山」が存在することがよくあります(結晶系Aが良い山、結晶系Bも別の良い山、みたいに)。
PIモードで作った 「山を選べるUI」「谷への大きなペナルティ」 は、MIモードでもそのまま活きます。
MIモード版SFIの、UI/UX構想
具体的に、MIモード版SFIをオフラインPC上でどう実装するか。ここも、社内で議論している構想を書いておきます。
UI原則は、PIモードと同じ3つ
- 提案は1点だけ:配合候補を10個並べても、材料の技術者は選べません。理由をつけて1つに絞る
- なぜこの配合か、日本語で説明する:「元素Aを増やして、Bを減らす方向で、実績データが薄い領域を狙いました」など
- 最終決定は人が握る:採用/却下/修正のボタン、却下理由の記録
MIモード特有のUI要素
- 配合エディタ:スライダーではなく、円グラフ的な配合比UI。「合計100%」の制約が視覚的に自明になる形
- 元素選択パネル:周期表を模したUIで、「使う元素/使わない元素/必須元素」を選べる
- 合成可能性チェック:提案された配合について、既知の相図・化学知識から 「これ、たぶん合成できます/怪しいです/無理です」 の判定を出す
- 時間軸設定:目的変数ごとに「測定にかかる時間」を登録し、短期指標と長期指標を分けて表示する
オフラインPC前提は変わらない
第3回で書いた通り、SFIは 軽くて安い道具として届けたい、という設計思想は、MIモードでも変わりません。材料の配合は、企業の生命線。むしろPIのレシピよりも、MIの配合の方がクラウドに出しづらい。「あなたの配合は、このPCから一歩も外に出ません」——ここは、MIモードでも譲れない設計判断です。
スペックはPIモードより少し重い
材料の探索空間は、PIより離散的で複雑なので、計算はやや重くなります。ただ、変数10〜15個・データ数百点程度なら、メモリ16GBの一般業務PCで十分動く範囲です。特別な計算機は要りません。
想定される順序:まずPIを固めてから、MIに拡張する
最後に、これを いつやるか の話です。
MIモードは魅力的なテーマですが、先にPIモードを、日本の量産現場で圧倒的に使えるレベルまで固めるのが先だと思っています。理由は2つ。
- PIモードの現場での実力を、実データで証明しきることが最優先。ここが揺らいだ状態で拡張に手を出すと、両方中途半端になる
- MIモードの3つの変更点(離散変数・化学制約・多段測定)は、それぞれ技術的に重い課題。じっくり設計する時間が必要
だから、PIモードを核に据えて、その隣にMIモードを建てる——この順序と構造で、じっくり進めたいと考えています。
シリーズ全体のまとめ
4回に分けて、こんな話を書いてきました。
- 第1回:SFIはMIじゃなくてPI。
- 第2回:PIとしての売りは「発見」より「はずれを出さない」こと。現場データの3つの厄介な癖には、それぞれ手を打ってある
- 第3回:MIとPIは別部門の別の挑戦。SFIは、両方の部門が新しい扉を開くための、軽くて安い道具でありたい
- 第4回:SFIをMIに拡張するなら、「PIモードの隣に建てる別棟」として設計する。共通エンジンは活かしつつ、UIと制約と時間軸は作り直す
私がこのシリーズで、一貫して書きたかったのは、この一点です。
バズワードに乗って「MIっぽいUI」を作るのは、たぶん簡単です。
でも、日本の量産現場と、日本の材料メーカーの現場に本当に届くツールを作るのは、まったく別の話です。
- PIモード:はずれを出さない安心感を売る
- MIモード:PIモードの隣の別棟として、離散変数・化学制約・多段測定に真正面から向き合う
- 共通するのは、ベイズ最適化の探索エンジンと、「周辺が平らな高台を返す」という設計思想
- どちらも軽くて安く、完全オフラインで、企業の情報を外に出さない
これが、今のところ私が思い描いている、SFIの未来の姿です。
次の段階では、まずPIモードを 擾乱(ドリフト、欠損、シフト交代の不連続)を含む模擬データ で徹底的に検証したいと思っています。MIモードは、その後に本格着手する順序です。
「言葉ではなく、数字で示す」。これがVertysのやり方ですので、また結果が出たらブログで報告します。
それでは、また次回。







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