第1回:会社の設計を、ゼロから組み立て直してみたい|ゼロリセットで考える、強い会社の設計論
連載「ゼロリセットで考える、強い会社の設計論」は「強い会社」をつくる構造を、既存のテンプレートを一度脇に置いて、ゼロから組み立て直す試みです。
社員の幸せ、顧客の満足、会社の永続を同時に成立させる設計から、生成AIを前提とした組織設計、信頼を構造に組み込んだ第三の資金調達まで、全9回にわたって書き進めます。BtoB製造業向けソフトウェアを手がけるVertys創業者による、設計論から設計実践への記録。
会社が強くなる理由は、結局のところ構造にある。資金調達からシリーズ調達、上場へと続く王道テンプレートは、確かに多くの会社を生んできました。ただ、これが唯一の道だと思考停止していないか。BtoB製造業向けソフトウェアという領域で、自分が向き合うべき構造を、もう一度ゼロから組み立て直してみたい。連載「ゼロリセットで考える、強い会社の設計論」、第1回。
本稿の用語
| 用語 | 意味 |
| PMF | プロダクト・マーケット・フィット。 プロダクトが市場に適合し、顧客が継続的に対価を払い、 自然に広がっていく状態 |
| シリーズA、B、C | スタートアップが事業の成長段階に応じて受ける、 複数回にわたる資金調達のラウンド |
会社というものを、自分なりに長く見てきました。強い会社と、そうでない会社の違いがどこにあるのかを、ずっと考えてきたように思います。そして、創業から間もない今、改めて思うのは、その違いは結局のところ、構造にあるということです。事業の構造、組織の構造、判断の構造、報酬の構造。強い会社は、強くあろうとして強くなったというより、強くなる構造を持っていたから、結果として強くなった、というほうが近いように感じています。
ところが、多くのスタートアップは、ほぼ同じテンプレートに沿って立ち上がっていきます。資金を調達し、人を増やし、PMFを探し、シリーズA、B、Cと段階的に資金調達を重ね、そして上場する。この流れ自体は、もちろん有効な選択肢の一つです。これを否定するつもりは全くありません。実際、このテンプレートから生まれた素晴らしい会社は、たくさんあります。
ただ、引っかかっているのは、これが唯一の道のように扱われていることです。本来、テンプレートというのは、ある時代の、ある業界で、最適化されてきた一つの解にすぎません。BtoB製造業向けソフトウェアという、自分が向き合おうとしている領域では、このテンプレートをそのまま当てはめると、無駄が大きくなりすぎる場面がたくさんあります。
たとえば、業界では本格的なソフトウェア開発に3億円から6億円規模の費用がかかることが珍しくありません。エンジニア、プロダクトマネージャー、デザイナー、営業、サポート、インフラ、セキュリティ。一つひとつは妥当に見えても、積み上げれば簡単にこの規模になります。そして、これだけの費用と時間をかけて作ったものが、思ったほど使われないことに、完成してから気づく。これはあまりに高い学習コストです。失敗そのものが問題なのではなく、間違いに気づくまでに払う代償が、高すぎるのです。
強い会社は、強く作ろうとして作るものではなく、強くなる構造を最初から組み込んでおくものだと思っています。
そして、自分が考える「強い会社」というのは、トップラインが大きい会社、急成長している会社、というのとは少し違います。顧客と長く付き合い続けられる会社、社員が長く一緒にいられる会社、事業が市場の変化を超えて長く続く会社。この三つが重なるところに、強い会社があると感じています。長さを軸に置くと、設計の優先順位が、かなり変わってきます。
自分が触れてきた領域には、参考にすべき構造もたくさんあります。前職では、直販、ファブレス、自前のフロント組織という構造の強さを、現場で見てきました。代理店に頼らず、自前で顧客に向き合う組織を持つこと。製造を持たず、設計と販売に集中すること。こういう構造的な選択が、長期にわたって会社の強さを支えていることは、確かに学んできたつもりです。
ただ、学んだ部分を踏襲するだけでは、たぶん面白い会社にはなりません。学んだ構造を一度バラして、今の時代に、自分たちの領域で、本当に必要な形に組み立て直したい。これが、この連載で「ゼロリセット」という言葉を使っている理由です。すでにあるものを否定したいわけではなく、一度全部を解体して、必要なものだけを自分たちで選び直したい、という感覚に近いです。
ゼロから組み立て直すといっても、すべてを自分で発明するつもりはありません。経営に関する観察や知見は、世の中にすでに大量にあります。考えたいのは、それらをどう選び、どう組み合わせ、どの順番で実装するか、という設計の部分です。
この連載で書いていきたいのは、大きく三つの塊です。
一つ目は、強い会社の目的をどう設定するか、という問いです。社員の幸せ、顧客の満足、会社の永続。この三つは、よく対立するものとして語られますが、自分は同時に成立する前提で設計したいと思っています。
二つ目は、その目的を実現する設計の本体です。人が強くなる構造、事業構造に思想を埋め込む方法、顧客との距離を組織で守る仕組み。この三本柱を、それぞれ一回ずつ書いていきます。そして、この三本柱を真面目に設計し続けると、必然的に行き着く形として、強い会社グループという話にもつながっていきます。
三つ目は、立ち上げ方そのものの再設計です。生成AIを前提に会社を組み立て直すこと、初期費用を抑えながら確実性を上げる事業開発、資本参加でも借入でもない第三の形でリスクを分け合うこと。ここは、テンプレートから一番外れる部分かもしれません。
書きながら、自分自身も整理されていく部分が多いはずです。ここに書くことが、正しい答えだとは思っていません。ただ、ゼロから組み立て直そうとすると、何が見えてくるのか。それを、できるだけ正直に書いていきたいと考えています。
強い会社とは何か。多くの本では、社員の幸せ、顧客の満足、会社の永続のいずれかが、他を犠牲にして成り立つように語られます。
次回はまず、この三つは同時に成立する、という前提から書きたいと思います。
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