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第3回:人が強くなる構造をつくる|ゼロリセットで考える、強い会社の設計論

「ゼロリセットで考える、強い会社の設計論」は、BtoB製造業向けソフトウェア事業を立ち上げる創業者が、強い会社をゼロから設計し直す全9回の連載です。

任せたいのに任せられない。育ってほしいのに、育たない。経営者の悩みの多くは、人ではなく構造の問題ではないか。性弱説を前提に組まれた組織は、性弱説的な人を作る。逆に、広い仕事を構造として任せ続けると、人はいずれ事業を起こせるレベルになる。創業初期に見えてきた、その片鱗を含めて書く、連載第3回。

前回、社員の幸せ、顧客の満足、会社の永続。この三つを同時に成立させる構造を作りたい、ということを書きました。今回はその一本目の柱、人の話です。

経営者と話していると、人についての悩みは、結局のところほとんど同じ場所に行き着きます。任せたいのに任せられない。自走してほしいのに、指示待ちになる。育ってほしいのに、育たない。優秀な人を採ったはずなのに、入ってしばらくすると、なぜか普通の人になっていく。こうした悩みは、業種や規模を問わず、よく聞きます。

ただ、自分はこの悩みの多くが、人の問題ではなく、構造の問題なのではないかと思っています。

経営者の多くが、自分でも気づかないうちに、性弱説を前提に組織を設計しています。人は放っておくとサボる、ちゃんと見ていないと手を抜く、任せると失敗する、だから管理しなければならない。こういう前提に立つと、自然と管理が増え、職能が細分化され、決裁の階層が深くなっていきます。そして、その構造の中で働く人は、いつの間にか、その構造にふさわしい人になっていく。狭い範囲だけを見て、決められたことだけをやり、判断は上に投げる。これは個人の資質の問題ではなく、構造がそういう人を作っているのだと思います。

自分は、性強説の立場に立ちたいと思っています。人は、ちゃんと任されると、ちゃんと強くなる。これは楽観論ではなく、構造の問題として、そう信じています。

人は、ちゃんと任されると、ちゃんと強くなる。これは精神論ではなく、構造の話です。

ただ、「任せる」という言葉は、よく誤解されます。任せるというのは、丸投げのことではありません。何を、どこまで、どういう判断基準で、どの範囲の決裁権で任せるのか。これを設計しないまま「任せたから自由にやってくれ」と言うのは、ただの放置です。放置された人は、たいてい萎縮するか、暴走するか、辞めていきます。任せるというのは、その人が動ける場と、判断するための情報と、決裁権を、構造として渡すことだと思っています。

そして、任せる対象として特に重要だと考えているのが、広い仕事です。

広い仕事というのは、職能で細かく切られた仕事ではなく、事業を縦に貫通する仕事のことです。顧客の課題を聞き、解決策を考え、提案し、契約し、納品し、運用を見届け、改善する。本来、事業というのはこの一連の流れがあって初めて成立するのに、組織が大きくなると、この流れが職能で輪切りにされ、一人ひとりは自分の輪切りの中だけを見るようになります。そうなると、その仕事が事業全体にどう貢献しているのかが見えなくなり、判断の質が落ち、成長が止まります。

広い仕事を任せるというのは、効率の話ではありません。一見、職能で分業したほうが効率は良さそうに見えます。ただ、長い目で見ると、広い仕事をしてきた人のほうが、事業を起こせるレベルまで成長します。狭い仕事を続けてきた人は、その狭い範囲では熟練するかもしれませんが、事業全体を見渡す視野は育ちません。これは、人の素質の問題ではなく、経験させてきた仕事の範囲の問題です。

つまり、人を強くするというのは、能力開発の話というよりも、どんな経験をさせるかを設計する話だと思っています。広い仕事を任せ、判断の機会を渡し、責任の輪郭を明確にする。この経験を積み重ねた人は、いずれ事業を起こせるレベルになります。これは、後の回で書く会社グループ構想にも、直接つながっていく話です。

ここで一つ補足しておきたいのは、営業職においても、広い仕事として設計したい、ということです。一般的に、営業は「新規受注を取る人」として狭く設計されがちです。受注したら次の顧客に行き、契約後のことは別のチームに引き継ぐ。これは効率としては合理的に見えますが、営業職にとっての成長機会としては、明らかに狭い。営業も、顧客の業務価値の実現まで含めて、広く担う形に設計したいと考えています。これは、後の回(第4回・第5回)で書くインセンティブ設計と、地続きの話になります。

創業から間もない今、すでに広い仕事を任せる構造の手応えを、自分自身の目で見ています。

クリエイティブを担う一人は、もともとこの分野は未経験から始めました。ところが今は、上場企業水準のアウトプットを出すまでに成長しています。これは本人の素質と努力が大きいのは間違いないのですが、構造として効いているのは、初日から広い範囲の仕事を任せていることだと思っています。指示通りに作るのではなく、何を作るか、どう作るか、どう運用するかまで、本人が考える。任されているから、考える。考えるから、伸びる。

バックオフィスを担う一人は、業務全般の自動化を、こちらが指示するより先に、自分で見つけて進めています。ここを自動化したほうがいい、これは仕組み化できる、これはAIエージェントに任せられる。経営側が考えるべきレベルの判断を、現場側から提案として上げてくる。これは、職能で輪切りにした組織では、まず起きません。広い視野で会社を見ることを、最初から期待されているから、そう動けるのだと思います。

二人とも、創業初期の少人数体制だからこそ、広い仕事を任せざるを得なかった、という側面もあります。ただ、自分はこれを「少人数だから仕方なく」ではなく、「会社が大きくなっても続けるべき設計」として捉えたいと思っています。人を増やして職能で分業するほうが、短期的には楽です。ただ、その瞬間に、人が強くなる構造は失われます。

性強説に立つということは、未来の自分への信頼でもあります。人を信じて任せる構造を作っておけば、自分が現場から離れざるを得ない時期が来ても、組織は止まらない。逆に、性弱説で管理を積み上げた組織は、トップが現場を見ていない時間が増えるほど、判断の質が落ちていきます。任せる構造を持っているかどうかが、長期の強さを決めるのだと思っています。

ここで気をつけたいのは、性強説で任せるというのは、聞こえはいいのですが、任された側から見れば、かなりの負荷だということです。任されることに慣れていない人にとっては、放置されているように感じることもあるはずです。だからこそ、任せる側は、任せた後のフィードバックの経路を、構造として持っておく必要があります。任せて、見届けて、必要なときには対話して、また任せる。この往復がない「任せる」は、たぶん長くは続きません。

ここまで、人を強くする構造について書いてきました。広い仕事を任せ、判断の機会を渡し、フィードバックの経路を構造として持つ。この三つが揃って、初めて人は強くなる、と考えています。

ただ、人がどれだけ強くなっても、事業のほうが顧客に背を向けていれば、その強さは生きません。

次回は、事業構造そのものに、どう思想を埋め込むかを書きたいと思います。

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