第6回:強い会社グループという、必然|ゼロリセットで考える、強い会社の設計論
「ゼロリセットで考える、強い会社の設計論」は、BtoB製造業向けソフトウェア事業を立ち上げる創業者が、強い会社をゼロから設計し直す全9回の連載です。
多くのスタートアップは、一社一プロダクトを巨大化する方向で設計される。ただ、人を強くする構造、事業構造、顧客との距離を真面目に運用していくと、必然的にもう一つ別の形に行き着く。強い会社グループという形だ。これは多角化戦略ではなく、設計の自然な結論。6年で上場を通過点とする時間設計の意味も含めて書く、連載第6回。
前回まで、人を強くする構造、事業構造に思想を埋め込むこと、顧客との距離を組織で守ること、と書いてきました。設計の三本柱です。今回はその先、この三本柱を真面目に運用し続けると、必然的に行き着く形について書きたいと思います。
多くのスタートアップは、一つの事業をひたすら大きくする方向で設計されています。一社、一プロダクト、シリーズ調達、上場。プロダクトを磨き、市場を広げ、組織を拡大し、トップラインを伸ばし続ける。これは王道で、有効な選択肢であることは間違いありません。
ただ、自分はこれとは少し違う方向で考えています。一つの事業を巨大化させるのではなく、複数の独立した事業体が緩やかに連なる、会社グループという形を目指したい。これは多角化戦略として目指しているのではなく、ここまで書いてきた三本柱を真面目に運用し続けると、必然的にそうなる、と感じているからです。
理由は、三つあります。
強い会社グループは、戦略として目指すものではなく、人と事業と組織を真面目に設計し続けた結果として、行き着く形なのだと思います。
一つ目の理由は、求める社員像から導かれる必然です。
人を強くする構造として、自分は広い仕事を任せ続けることを設計の中心に置いています。広い仕事を任され、判断の機会を渡され、責任の輪郭が明確になっている経験を積み重ねた人は、いずれ事業を起こせるレベルになります。これは、こちらが意図して育てるというより、構造としてそうなる、という話に近いのではないかと思っています。
そういう人材が複数出てきたときに、一つの会社の中に留めて、複数の事業ラインの長として収めることもできます。ただ、それは本人にとっても、会社にとっても、噛み合わせが悪いのではないかと感じています。事業を起こせるレベルになった人を、一つの組織の中で部門長として収めるのは、その人の力を縮こませることになりかねません。独立した会社として、その人に経営そのものを任せたほうが、本人も会社も、もっと強くなります。
つまり、人が強くなる構造を真面目に運用していくと、いずれ「組織を分けて任せる以外に選択肢がない」状態が、自然に訪れます。会社グループは、そのときに用意しておくべき形であって、戦略として最初から狙うものではない、というのが自分の感覚です。
二つ目の理由は、リスクの分散です。
一社一事業に集中すると、その事業が傾いたときに、すべてが傾きます。市場の構造が変わったとき、技術の前提が変わったとき、規制が変わったとき、競合の手が伸びてきたとき。これらの変化は、どんなに優れた事業でも、いずれ必ず起きます。一社一事業の構造は、こうした変化に対して、構造的に脆い。
複数の独立した事業体に分けておけば、リスクは構造的に分散します。一つの事業が傾いても、他の事業が支える。資本関係が緩く、事業の意思決定が独立していれば、傾いた事業を畳む判断も早くできます。これは多角化リスクの話ではなく、長期に存続するための構造の話です。会社の永続を真剣に設計するなら、一社一事業に賭け続けるのは、構造として整合しないのではないかと思っています。
三つ目の理由は、集合知です。
顧客との距離を組織で守る話の中で、フロントのN数が解像度を生むという話を書きました。これと同じ構造が、会社単位でも起きると考えています。複数の独立した事業体が、それぞれ別の市場、別の顧客、別の現場と向き合っていると、その観察と知見が、互いに持ち寄られる。一社の中だけでは到達できない解像度に、グループ全体としては届くようになります。
ある事業体が顧客接点の中で見つけた業務の癖が、別の事業体の商品設計に効くことがあります。ある事業体が試行錯誤の中で見つけた組織運営の工夫が、別の事業体で再現される。一社で全部を抱え込むよりも、独立した複数の視点が持ち寄られたほうが、判断の質は上がります。これは、人と人の間で起きる集合知と、構造的には同じ話です。
つまり、会社グループは多角化戦略でも、規模拡大戦略でもありません。人と事業と組織を真面目に設計し続けた結果として、行き着く形だと思っています。
会社グループとして緩やかに連なるとはいえ、グループ全体で共有しておきたい思想はあります。特に、第4回・第5回で書いた、継続を重視するインセンティブとKPIの連動は、グループ各社で共通の規律として持っておきたい。新規受注偏重の力学に流れた事業体が一つでも出ると、グループ全体の思想が揺らぎます。各社の独立性を尊重しつつも、継続を価値とする評価軸だけは、グループ全体で揃えておく。これは独立と一貫性を両立させるための、最小限の縛りだと思っています。
ここで、6年で上場、という話について書いておきたいと思います。
自分たちは、6年で上場を目指しています。ただ、これは「上場をゴールにする」という意味ではありません。会社グループとしての構造が、社外からも検証可能な水準まで育ったことを示す、一つの通過点として位置づけています。
6年というスパンも、戦略的に短くした数字ではなく、構造から導かれる時間です。自分たちは、外部の大型調達には頼らない方針です。資金調達でレバレッジ(借入や出資によって、自己資金以上の規模で事業を動かすこと)をかけて急成長するのではなく、利益を再投資して純増させていく。これが最短のルートだと考えています。
逆のことを言っているように聞こえるかもしれません。調達したほうが早いはずだ、と。たしかに、大型調達をすれば、もっと早く上場まで到達できるかもしれません。ただ、急いだ調達は、月次解約・低初期費用という事業構造の思想と、必ずどこかで矛盾する判断を強いてきます。資本のロジックに乗った瞬間、月次解約をやめて年間契約に戻す圧力がかかります。属人性の資産化のような時間のかかる設計は、四半期ごとの成長率に合いません。営業のインセンティブも、短期で売上を立てるために新規受注偏重に戻す圧力がかかります。
調達によって得られる時間と、調達によって失われる思想。この両方を見比べたうえで、自分たちは、思想を残す側を選んでいます。利益を再投資して純増させていくリズムが、結果として6年で上場というスパンになる。これは目標として置いた数字ではなく、構造から逆算して出てくる時間です。
会社グループという形は、聞こえはいいのですが、運営はかなり難しいのだと思います。独立した事業体が、それぞれ独立した判断をしながら、グループとしての一貫性を保つ。任せきると判断がバラバラになり、握りすぎると独立の意味が失われる。この匙加減を間違えると、会社グループはただの寄せ集めになります。
だからこそ、人を任せる構造と、会社グループの設計は、地続きで考えないといけません。任せる範囲、決裁権、フィードバックの経路、グループ全体での思想の共有。これらを、組織が大きくなる前に、構造として準備しておく必要があります。性強説で人を任せる構造を持っていないまま会社グループだけを作っても、おそらく機能しません。
ここまで書いてきたことを整理すると、会社グループという形は、三本柱から導かれる必然であり、リスク分散と集合知の両方を構造として備えた形であり、6年で上場という時間軸とも矛盾しない選択である、ということになります。
ただ、ここまで書いてきた構造を成立させるには、もう一つ、大きな前提があります。生成AIを前提に、会社そのものを組み立て直すこと。少人数で広い仕事を任せること、複数の事業体を少人数で運営すること。これらは、AIエージェントが前提にあって初めて成立する話です。次回は、そこを書きたいと思います。
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