スピンオフ#1 「MI」と「PI」──同じAIブームの中で、実はまったく違うゲームをやっている話

「MI」と「PI」。同じAIブームの中で語られがちなこの2つは、実はまったく違うゲームです。SFIが立つべきはどちらか。バズワードに乗らず、日本の製造業が本当に有利に戦える土俵を整理します。 本記事は全4回のSFI開発記のスピンオフ連載の第1回となります。
みなさん、こんにちは。Vertysの山本です。
最近、社内で 「SFIって、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)にも使えるんじゃないか?」 という議論をしています。
その壁打ちを通じて、自分の中でモヤモヤしていたことが、だんだん言葉になってきました。
今日はその話を、シリーズ4回に分けて書いていきます。第1回は、「MIとPIをごっちゃにしたまま話を進めると、たぶん事故る」 という、説明から始めたいと思います。
「MI」って、そもそも何ですか?
材料・化学業界の方は、もう耳にタコができるくらい聞いている言葉かもしれません。
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)。
ざっくり言うと、こういう話です。
「この元素をこの比率で混ぜたら、どんな物性が出るか?」
——それを、データとAIで先に当てにいく。
つまり、「何を作るか」をデータで探しにいく世界です。新素材開発が主戦場になります。
実際に現場の方と話していると、「MIという言葉は聞いたことがあるけど、中身はよく分かっていない」という声を、製造業のあちこちでよく耳にします。
そして、「MIをやりたい」と相談されて話を深掘りすると、実際に困っているのは新素材の探索ではなく、歩留まりや条件のばらつきの話——つまりPI(プロセス・インフォマティクス)側の課題であることが、少なくありません。
「PI」というもう一つのゲーム
PI(プロセス・インフォマティクス)というのは、
材料は決まっている。
問題は「**どう作れば、量産で安定するか**」だ。
——という世界です。
温度、圧力、時間、搬送速度、乾燥条件。
つまり、現場のエンジニアが毎日いじっている「あの設定値たち」を、データで整えていく世界です。
産総研なども、このMIとPIを分けて整理し始めています。ざっくり対比すると、こんな感じです。
| MI | PI | |
| 探すもの | 材料の組成・構造 | 製造プロセスの条件 |
| 現場の問い | 「何を作るか」 | 「どう作るか」 |
| 主戦場 | 新素材開発 | 量産・歩留まり改善 |
| データの主 | 化学メーカー・研究所 | 工場・製造現場 |
ここが、今日いちばん言いたいところです。
PIのデータは、工場にしかありません。
しかも、以前このブログで「データの墓場」という言い方をしましたが、きちんと整理された形ではなく、サーバーの奥に大量に眠った状態で存在している——これが現場の実情です。この墓場を掘り起こす仕事は、工場の外にいる人にはできません。
SFIが立っているのは、MIじゃなくてPIになります。
私たちが開発している SFI が扱っているのは、温度・圧力・時間といったプロセス条件のロバスト化と、レシピの窓明けです。
つまり、100%PIの領域なんです。
ここを混同して「SFIはMIツールです!」と売り出すと、どうなるか。
私の想像だと、たぶんこうなります。
- 組成探索型の海外プラットフォームと正面から比較されて、記述子とデータ量で勝負にならない
- お客様が期待するのは「新素材の発見」なのに、SFIが出せるのは「既存レシピの安定化」——期待と成果がズレて、信頼を失う
逆に、「PIプレイヤーです」とポジションを取ると、話は真逆になります。
- 勝敗を分けるのは 「工場の中に眠っているデータを、使える形に整えて活かせるか」 ——これはVertysがFAとレガシー設備でやろうとしている領域そのもの
- 国内PI市場はまだ黎明期。まだ誰も王者になっていない
私がSFIの立ち位置を「MI」と呼ばないようにしているのは、これが理由です。
MIに乗った瞬間、「持たざる者の戦争」 になる。でも、PIなら、日本の現場にいる私たちの方が有利なゲームだと思うんです。
用語の話を、少しだけ
このシリーズで、このあと何回か出てくる言葉を、先に現場の言葉で置いておきます。
- 説明変数:動かせる入力条件。要は 「温度・圧力・時間などの設定値」
- 目的変数:測る結果。要は 「強度・歩留まり・不良率などの成績」
- 応答面:入力と結果の関係を表す曲面。要は 「この設定でどんな成績になるか」の地図
- サロゲートモデル:応答面を近似する予測器。要は 「実験の代わりに答えを出す、計算機の中の模型」
- ベイズ最適化:少ない試行で最適解に近づく統計手法。要は 「勘のいい助手が、次に試すべき条件を1つだけ指してくれる」方式
- ロバスト性:ばらついても崩れない性能。要は 「最適点の周りが平らな高台になっている」こと
今日のまとめ
私が今のところ整理しているのは、こういうことです。
SFIは、MIツールじゃない。PIツールだ。
でも、MIで培われた技術(ベイズ最適化とか)は、PIにも使える。
だから、正しい打ち出し方があるとしたら、こういう順序だと思うんです。
**「MIの道具を借りた、PIツール」**
「MI風」を装ってバズワードに乗る誘惑を、私たちは意識的に断つ必要がある——今のところ、そう考えています。
次回は、SFIのPIとしての中身は、実際に何をやっているのか。特に、日本の製造現場でよく現れる「厄介な癖」に対して、SFIがどう設計されているのかを書きます。







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