スピンオフ#3 MIとPIは、別部門の別の挑戦──SFIは、その両方の扉を開くための、軽い道具でありたい

MIとPIは、同じ会社の中でも別の部門が別の未来を目指しています。新しい可能性の扉を開こうとする技術者に届けたいのは、重厚な道具ではなく、軽くて安く、手元のPCで試せる道具。SFIの届け方の思想を書きます。 本記事は全4回のSFI開発記のスピンオフ連載の第3回となります。
みなさん、こんにちは。Vertysの山本です。
前回まで、SFIをPIツールとしてどう設計しているかを書いてきました。
今日は少し視点を変えて、SFIをどんな姿勢で、どんなお客様に届けたいかという話を書きます。次回、いよいよ 「SFIをMI領域に拡張するとしたら」 という本題に入る前に、その手前で書いておきたい構造の話です。
書きたいのは、こういうことです。
「MI」と「PI」は、同じ会社の中でも、別の部門が別の未来を目指している。
SFIは、その両方の部門が、新しい扉を開くときに、できるだけ簡単で安価に手に取れる道具でありたい。
事実:MIとPIは、別の部門が別の目線で追いかけている
まず押さえておきたい事実は、これです。
MIとPIは、同じ会社に籍を置いていても、別の部門が別の目的で追いかけています。
ざっくり整理すると、こうなります。
MI側の部門
- 材料開発部、研究開発部、中央研究所
- 仕事:新素材の設計、配合の最適化、新用途の探索
- 予算:研究開発費、中長期投資
- 評価指標:特許件数、新製品の売上寄与、開発リードタイム
- 時間軸:数ヶ月〜数年
PI側の部門
- 生産技術部、製造部、品質保証部
- 仕事:量産ラインの安定稼働、歩留まり向上、不良削減
- 予算:製造原価、設備投資、改善予算
- 評価指標:良品率、生産性、クレーム件数
- 時間軸:日次〜月次
同じ社内でも、この2つの部門は別の言語で仕事をしています。使う道具も、成果の測り方も、意思決定の速度も違う。だから、MI部門とPI部門が同じテーマで机を並べて議論することは、実はそれほど多くありません。
両方とも、「新しい可能性の扉」を開こうとしている
ここが、今日いちばん書きたいところです。
MI部門もPI部門も、それぞれ別の場所で、新しい可能性の扉を開こうとしています。
MI部門が開きたい扉
- 今まで試せなかった配合を、少ない実験で評価したい
- 新しい原料候補を、系統的に位置付けたい
- 材料設計の勘所を、次の世代に引き継げる形にしたい
PI部門が開きたい扉
- プロセスのばらつきの正体を、数字で見える形にしたい
- 「なんとなく安定している」を「なぜ安定しているか説明できる」に変えたい
- 良品率の次の一段を、感覚ではなく設計で取りにいきたい
どちらも、「今まで手が届かなかった領域に、一歩踏み出したい」という前向きな挑戦です。困っているというより、次に進みたい。ここを見誤ると、道具の設計思想全体がズレます。
挑戦者に必要なのは、重厚な道具ではなく、軽くて安い道具
新しい扉を開こうとしている技術者に、SFIはどう届くべきか。
私の答えははっきりしています。
重厚で高価な道具ではなく、軽くて安価な道具として届けたい。
理由はシンプルです。
理由①:「試してみる」の心理的ハードルを下げたい
新しい可能性に踏み出そうとする挑戦は、社内で完全に承認されてから始まるわけではありません。多くの場合、現場の技術者が「ちょっと試してみたい」という段階から芽が出ます。
このとき、数百万円のプラットフォーム契約や、専門コンサル契約が必要なツールでは、そもそも試せません。「試したい」が「稟議を通す」に変わった瞬間、勢いが止まる。
だから、SFIは オフラインのPC上で、まず個人の技術者が触って試せる ものでありたい。「完全オフライン・一般業務PCで動く」 という設計判断は、機能の話ではなく、挑戦者の心理的ハードルを下げるための設計思想です。
理由②:MIもPIも、まず「小さく回す」ことに意味がある
新しい探索は、最初から大規模にやると必ず失敗します。少ないデータ、少ない変数、狭い範囲で、まず1周回してみる。その手応えを掴んでから、次のスコープに広げる。
だから、SFIは 数十点のデータから動く 設計にしています。「MIプラットフォームを導入するには、まず数千点のデータを整備してください」ではなく、「今手元にある数十点から、まず始められます」。ここも、挑戦者に寄り添うための設計です。
理由③:材料も現場も、価値の主役はあくまで技術者
SFIは、材料開発の技術者や生産技術の技術者を、置き換える道具ではありません。技術者が持っている勘所と経験を、少ない実験で最大限に活かすための補助輪です。
だから、UIは技術者の判断を尊重する設計にしています。採用/却下/修正の最終決定権は必ず人が握る、なぜこの提案かを日本語で必ず説明する——これは、道具が主役にならないための設計です。
SFIが両部門に届けたい、それぞれの姿
こういう思想の上で、SFIは材料開発部門と生産技術部門に、それぞれ別の顔で届きたいと思っています。
材料開発部門へのSFI(次回本題のMI拡張版)
- 配合エディタ、離散変数への対応、化学制約の扱い
- 材料開発の技術者が 手元のPCで、少ない実験データから始められる
- 高価なプラットフォーム契約なしに、個人の探索から始めて、部門の探索へと育てられる
生産技術部門へのSFI(現行PIモード、第2回で書いた話)
- プロセス条件の最適化、ロバスト化、多峰性への対応
- 生産技術の技術者が 手元のPCで、既存の実績データから始められる
- 大規模な設備投資なしに、個別ラインの改善から始めて、全ラインの標準へと育てられる
両方に共通しているのは、「小さく、軽く、安く、始められる」——ここです。これが、新しい扉を開こうとする挑戦者に対する、私たちからの答えです。
部門を跨ぐ横展開は、あくまで結果として
同じ会社の中で、材料開発部門にMI拡張版が入り、生産技術部門にPIモードが入る——という横展開は、事業構造としてはあり得ます。
でも、これは営業として最初から狙いにいく話ではないと思っています。
材料開発部門で成果が出れば、その技術者が生産技術部門の同僚に自然に紹介してくれる。生産技術部門で成果が出れば、材料開発部門の同僚に自然に紹介してくれる。そういう自然な広がりが起きる程度に、SFIが軽くて安くて手に取りやすい道具であること——ここが本質です。
「部門横断で導入いただければ、SFIの真価が発揮されます」みたいな売り方は、挑戦者を身構えさせるだけです。そうではなく、まず片方の部門の1人の技術者が、手元で試せる。そこで手応えを掴めば、隣に広がる——この形が、SFIらしい広がり方だと思っています。
——という思想を踏まえた上で、次回は本題に戻ります。
「材料開発部門の技術者が、新しい可能性の扉を開くために、SFIをどう拡張するか」
MI拡張版SFIの、思想と構造の話です。次回で、シリーズを閉じます。
それでは、また次回。







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