1. HOME
  2. ブログ
  3. Tech
  4. Excelは悪くない、酷使が悪い──『秘伝のタレ化』したマクロが工場を縛る  Tech#8
BLOG

ブログ

Tech

Excelは悪くない、酷使が悪い──『秘伝のタレ化』したマクロが工場を縛る  Tech#8

▸ Excelは最高の作業台であって、工場の頭脳ではありません。

こんにちは。技術コラム第8回です。今回は、日本の製造業を裏で支える影の功労者であり、同時に最大のボトルネックでもある『アイツ』について、深く長く書きます。

愛すべきExcel、過労死寸前


最初に明言しておきます。私はExcelが大好きです。あんなに汎用的で、誰もが使えて、サクッと表やグラフが作れるツールは他にありません。ピボットテーブル、条件付き書式、Power Query、Power Pivot、近年はLambda関数やスピル機能──進化も止まりません。

しかし、現場を歩くと、Excelが過労死寸前になっている光景に必ず出くわします。生産計画、品質管理、歩留まり集計、設備保全履歴、出荷実績、在庫台帳、不適合是正処置記録、果てはISO内部監査のエビデンス管理まで、すべてが『.xlsx』の中に吸い込まれていきます。

秘伝のタレが生まれるメカニズム


Excelがレガシーシステム化する道筋は、毎回ほぼ同じです。

  • 個人ツール時代:一人の有能な担当者が、自分の集計用にマクロを書く
  • 部内共有時代:『これ便利だね』と共有。ファイル名に_ver2、_改が増え始める
  • 連結時代:他部署のExcelをVLOOKUPで引っ張る。気づけば参照先が20ファイル
  • モンスター時代:マクロ行数が数万行、開くのに3分、ソートでフリーズ
  • 神格化時代:作者が退職。誰も中身を触れない。『秘伝のタレ』として祀られる

ここまで来ると、もはやファイルではなく信仰の対象です。神棚に供え物が増えていきます。

現場の声:退職者の置き土産



新任担当者:「この『最新版_品質集計_最終_本当に最終_v3.xlsm』、開くのに3分かかるし、ちょっとソートしただけでフリーズするんですが……」

先輩:「あっ、それ作った鈴木さん、去年退職したんで、絶対にマクロのコードはいじらないでくださいね。工場が止まります」

新任担当者:「……え、じゃあ何か不具合があったら誰が直すんですか」

先輩:「神に祈る」
                           

Excelの得意・不得意を冷静に棚卸しする


問題は『Excelを使うこと』ではありません。『Excelに何を任せているか』です。

Excelが得意なことExcelが苦手なこと
単発の集計・サマリ多変量の継続的監視
アドホックな可視化大量データの堅牢な保管
(10万行超で劣化)
手元の軽量シミュレーション複数人同時編集(競合が頻発)
最終成果物のプレゼン用整形データ統合・マスタ管理
個人の思考整理業務プロセスの標準化
CSV・外部データの取り込みリアルタイム性・イベント駆動

左側だけに任せていれば、Excelは最強の相棒です。右側まで任せ始めた瞬間、レガシーの扉が開きます。

『隠れExcel』と

『裏スプレッドシート』の問題


面白いのは、『Excel禁止』を通達しても、現場は必ず地下に潜ることです。SharePointで共有しない『個人Excel』、Teamsで送り合う『裏集計シート』、USBメモリに入れた『本当の台帳』。Excelは禁止しても根絶できません。そもそも根絶する必要もありません。

正しい棲み分け設計:

頭脳は別基盤、Excelは作業台


解決策は明確です。工場のコアな頭脳、つまりデータ統合・多変量解析・継続監視の役割を、本来の基盤に移す。

そしてExcelには、結果を素早く眺めるためのビューワー兼、最終仕上げの作業台という本来の居場所に戻ってもらうのです。

機能どこに移すか/どこに残すか
データ収集・統合PLC連携(eSmartLink)やデータベース基盤に移す
継続監視・アラートエッジ/フォグ層のダッシュボードに移す
多変量解析・要因探索SFIのような解析基盤に移す
OEE・稼働率集計PIECEMAKERのようなプラットフォームに移す
月次報告書のレイアウトExcelに残す。ここはExcelが最強
アドホックな追加集計Excelに残す。ここもExcelが最強
経営層向けサマリ整形Excelに残す。ここもExcelが最強

この棲み分けを『Excelを辞めさせる』ではなく『Excelを昇進させる』と表現すると、現場の抵抗は劇的に減ります。長年の重労働から解放し、得意な仕事に専念させてあげる。これはExcelに対する敬意でもあります。

現実的な移行プラン:3ステップ

現場を傷つけずに移行するには、段階を踏むのが鉄則です。

  • 棚卸し:どのExcelが『頭脳』を担い、どれが『作業台』のままかを分類する
  • 頭脳の移植:秘伝のタレのうち、継続監視とデータ統合を専用基盤に移す。Excelは結果を参照するビューワーとして残す
  • ビューワー化:Excel側はPower QueryやDB接続機能で、基盤からデータを引っ張る『窓』に変える

この移行で絶対に避けるべきは、『Excel全廃』という過激派アプローチです。現場は隠れExcelを量産し、レガシー問題はむしろ悪化します。

今回の結論


Excelが悪いのではありません。私たちがExcelに甘えすぎた結果、本来のスペック以上の重荷を背負わせているだけです。Excelに便利な作業台として働いてもらい、工場の頭脳は別の仕組みに戻してあげる。これが一番平和で、一番儲かる棲み分けです。

Excelは敵ではなく、酷使されすぎた同僚です。まず、お疲れ様でした、と言ってあげましょう。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事